欲望の果て
いま思うと、今年の梅雨は記録的な短さだったような気がする
ただでさえ雨が少なかったのに、その後猛暑が続いてどうなることかと思ったけど、やっと普通に生活できるようになって本当に良かった
彼と出会ったのは、そんな日のことだった
いつもの生活に戻れた喜びで、どこか高揚していたのかもしれない
彼に会った途端、私は堪えきれずに身体を預けてしまった
いま、その彼の種が私の中で息づいている
その所為だろうか・・
いつもは甘党の私が、今日だけは塩辛いものを望んでいる
「こんなことは、今まで一度もなかったのに・・」
そう思っているうちに、それはもう抑えきれないほどの欲望に変わっていた
その時だった
私の前に温かい美味しそうな匂いが漂ってきた
周りの空気さえも、こっちへ来いと私を誘っている
「あ~、もう我慢できない!」
私はその美味しそうな匂いに向かってふわふわと向かっていた
美味しそうな匂いは、少し湿った太くて柔らかなモノから漂っていた
そこに近づいてみると、あれほど食べたかったものが目の前にある!
「あ~、これが欲しかったの・・」
もう私は我を忘れて口を近づけていた
どれぐらいの時間が経っただろう
一心不乱に欲望を満たしていた私が、ふと我に返った時だった
大きな空気の波が私の上から押し寄せてくる
「あ!いけない」
急いで口を離そうとするがもう間に合わない
「あ・・ダメ!」
「間に合わない・・」
「やだ・」
「ママ~!蚊にさされちゃった~」
「あ~ら、今年は蚊が少ないって言ってたのに・・」
「虫よけスプレーしてくれば良かったわね」
「でも叩いて殺しちゃった」
「刺された痕は掻いちゃダメよ!」
「家に戻ったらクスリつけてあげるから・・」