すこしだけ深堀りしてみるブログ

日々の生活で気になったことを自分が納得できる程度に調べてみるブログです

アルコールチェックの義務化

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昨年末、突然私のところに総務部のA氏が来て、こんなことを言い出した

「来年4月から営業担当者は、クルマで出掛ける前と後にアルコール検知器を使って飲酒チェックすることになりました」

「え~!そうなの?」

「先日道交法が改正されて、自家用車を5台以上保有している会社は必ず行うことになったんですよ」

「それって緑ナンバーのクルマだけじゃなかったっけ?」

白ナンバー車も運転前に飲酒を確認する義務はあったんですが、アルコール検知器を使ったり、内容を記録したりする必要はなかったんです」

これまで、安全運転管理者に対しては、運転前において運転者が飲酒により正常な運転をすることができないおそれがあるかどうかを確認すること等が義務付けられていたものの、運行管理者(道路運送法(昭和26年法律第183号)第23条第1項及び貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)第18条第1項に定める運行管理者をいう。)と異なり、運転後において酒気帯びの有無を確認することやその確認内容を記録することは義務付けられておらず、また、確認方法についても具体的には定められていなかった。        
道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者業務の拡充について(通達)」より抜粋

「そうだよね・・それが何で変わったの?」

「6月に白ナンバーのトラックが児童5人を死傷させた事故があったじゃないですか?」

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「あっ!千葉の八街で起きたヤツか!」

「運転手が荷物を届けたあとに酒を飲んで、居眠り運転した挙句に子供の列に突っ込んでしまった事故です」

「ニュースで何度も見たけど、ひどい運転手だよな~」

「事故を起こした運転手もそうですが、それを監視監督していなかった会社も相当非難されたのを覚えてます?」

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「うん、マスコミが散々叩いてた・・」

「また自社の荷物を運ぶためのトラックはアルコールチェックが無くて、お客さんの荷物を運ぶトラックはアルコールチェックが義務付けられているのはおかしいとも・・」

「そうだった・・」

本年6月28日に千葉県八街市で発生した交通死亡事故を受け、同年8月4日に決定された「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策」において、「自動車を一定数以上保有する使用者に義務付けられている安全運転管理者等の未選任事業所の一掃を図るとともに、乗車前後におけるアルコール検知器を活用した酒気帯びの有無の確認の促進等安全運転管理者業務の内容の充実を図る」こととされた。これを踏まえ、今般、道路交通法施行規則の一部を改正し、安全運転管理者の行うべき業務として、アルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認等を新たに設けることとしたものである。      
道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者業務の拡充について(通達)」より抜粋

菅総理も現地を訪れて献花しましたが、その後閣僚会議を開いて通学路の総点検と対策の拡充・強化を関係大臣たちに指示したんです」

「なるほど・・それで道交法が改正されたわけだ」

「でも、自家用車全部ってのはちょっとなぁ~」

「飲酒運転による死亡事故は罰則の強化である程度減ったそうですが、その後は下げ止まりになってるらしいですよ」f:id:dfcarlife:20220128182216p:plain

事故相手が飲酒運転だった場合の自動車保険の補償 | 自動車保険の三井ダイレクト損保 (mitsui-direct.co.jp)より

「だから今回大ナタを振るったってわけか・・」

「今回の対象は、定員が11人以上の白ナンバー車を1台以上、または白ナンバー車5台以上を持っていて、安全運転管理者を選任している事業所となっています」

「じゃあ、白ナンバーだけなんだ」

「いえ、黄ナンバーの軽自動車も対象で、50㏄以上のオートバイは0.5台で換算するそうです」

「それじゃ対象になる会社は相当な数になるんじゃないの?」

警察庁によると、令和3年3月末時点で安全運転管理者を警察に届け出ている事業者は全国で約34万、対象ドライバーは約782万人にもなるそうです」

「うちもそうだけど、対象になる会社は大変だ!」

「ところで、4月以降は具体的にどうすればいいの?」

「まず4月以降は、①運転前後の運転者の状態を目視等で確認して酒気帯びの有無を確認するのと、②酒気帯びの有無について記録し1年間保存することになります」

「最初はアルコール検知器は使わなくていいんだ」   

「道交法改正に当たってパブリックコメントを募集したところ、検知器の購入や準備に時間がかかるという声があり、検知器は半年ずらすことになったようです」

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「じゃあ10月からはアルコール検知器がマストなわけ?」

「はい! 10月からは①運転者の酒気帯びの有無の確認はアルコール検知器を用いて行うことと、②アルコール検知器を常時有効に保持しなければなりません」

道路交通法施行規則の一部改正                         
安全運転管理者の業務として次の業務を新たに定めることとした(府令第9条の10関係)。
(1) 酒気帯びの有無の確認及び記録の保存(令和4年4月1日施行)          
ア 運転前後の運転者に対し、当該運転者の状態を目視等で確認することにより、当該運転者の酒気帯びの有無を確認すること(第6号)。                   
イ アの確認の内容を記録し、当該記録を1年間保存すること(第7号)。       
(2) アルコール検知器の使用等(令和4年10月1日施行)              
ア (1)アの確認を、国家公安委員会が定めるアルコール検知器を用いて行うこと(第6号)。
イ アルコール検知器を常時有効に保持すること(第7号)。             
道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者業務の拡充について(通達)」より抜粋

「でもAさんもご存じの通りうちの営業は直行直帰型だけど、目視での確認ってどうやるの?」

「そこなんですが・・、PCや携帯のテレビ機能で顔を確認するのは現実的じゃないので、やっぱりアルコール検知器を導入するしかないかと・・」

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「だってうちの営業担当者って、なんだかんだで200名近くいるよ!」

「そうなんですよ。だから今から機種を選定して準備をしないと間に合わないんです」

「1台導入するのにどれぐらいかかるの?」

「ピンキリですね、5千円ぐらいから高いものだと5万円以上するものもあります」

「どこが違うの?」

「感知性能や交換サイクルでも変わってきますし、スマホに連動してデータが自動で送られるかどうかや、専用の管理ソフトの有無、故障や交換などのメンテナンスの有無でも違ってきます」

「オーソドックスなタイプだとどれぐらいかかるの?」

「そうですね~、機種自体は1万円、管理ソフト費用が2万円、毎月のメンテナンス費用が毎月千円ってところですかね」

「じゃあ初年度が一人当たり4万2千円、全社で840万円ってことか~」

「ただ2年目からはメンテナンス費用だけになりますから、一人当たり1万2千円、全社で240万円になります」

「もっと安くならないの?」

「5千円のぐらいの機種ならありますよ」

「ちゃんと検知するんでしょ!」

「もちろんです! ただデータを自動で管理ソフトに飛ばしたりはできないので、数値をテレビ電話で確認して管理者がエクセルか何かに記録する必要がありますね」

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「管理者が面倒だけど、仕方がないね」

「あと検知器は大体1年が寿命なので、1年ごとに買い替える必要があります」

「あ!そうなんだ・・」

「はい、だから毎年入れ替えに一人5千円がかかることになります」

「オーソドックスな方は交換がタダなの?」

「はい!」

「毎年100万円で済むけど、管理が面倒ってことか・・」

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「うちもそうだけど、これに関する出費と手間は正直大変だよね・・」

「でも、うちみたいな直行直帰型の会社は少ないみたいですよ」

「そうなんだ・・」

「事業所に毎朝出勤するところは固定式が1台あればいいので、15万円から30万円ぐらいで済みます」

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「それなら点呼も記録も楽ってわけだ」

「それでも企業にとっては経費と手間がかかりますけどね・・」

「国はいつも民間に丸投げだからね」

「八街の事故も、問題はこれだけじゃない気がしますがね・・」

「確かに・・」

こんな会話があったあと、八街の事故を改めて調べてみた

すると、今回の事故現場から3キロしか離れていない場所で、5年前にもトラックが登校中の小学生の列に突っ込み、児童4人が重軽傷を負ったというのだ

八街市児童5人死傷 5年前も事故 なぜ同じ小学校で 千葉|NHK事件記者取材noteより

今回の事故は地元の人にとっては「またか!」という事故だったわけだ

5年前に事故のあった国道は今回と同じ小学校の通学路で、歩道はあるがガードレールがなく、トラックは歩道に乗り上げて小学生をはねた

その後事故現場にはガードレールが設置されたが、たった20mだけだという

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今回起きた現場はそれよりひどい

テレビで現場の映像が映っていたが、歩道もなければ白線もない、もちろんガードレールもない制限時速60km/hの道をクルマがどんどんすれ違っていく

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「飲酒運転でなくとも、ひとつ操作を間違えれば同じことが起きてたな・・」

八街市は元々広大な農地が広がる場所だったが、バブル期の急激な都市開発で宅地がどんどん増えていったそうだ

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しかし無秩序に住宅が建てられたため、下水道や道路などが後追いになり、機能性の悪い街になってしまった

その結果、クルマと人がギリギリですれ違う道路が出来てしまったわけだ

「でも似たような景色を、郊外に行くとよく見かけるよな・・」

いま事故の起きた道路は制限時速60km/hから30km/hに変更され、道路の一部を盛り上げるバンプが設置されているそうだ

道幅を広げたり、ガードレールを設置するには時間と費用がかかる

もっと早くこういう対策が打てなかったのだろうか?

そもそも通学時間(1時間程度)は車両通行禁止にしたり、それがダメなら通学時は一方通行にするなど、何かしら「やり方」はあったはずだ

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そして予算が足りない自治体に対して、国はもっとやることあるのではないだろうか・・

飲酒運転による悲惨な事故が起きないようにすることは大いに賛成だが、今回の事業者への義務化は少し強引というか、世論の盛り上がりに乗じたパフォーマンスのような気がしてならない

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そもそも業務中に酒を飲んで運転すること自体が異常(レアケース)だと思うのだが・・

人気取りのパフォーマンスのような対策より、もっと肝心なところに適切な対策をよく考えてからお願いしたいものだ

今日の深掘りはここまで